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〜 北越急行ほくほく線
「超快速スノーラビット」乗車記 〜


交通システム工学科3年 3039番 K.K

1. はじめに

 「超快速スノーラビット」号とは、新潟県の第三セクター北越急行が同社のほくほく線において運行している列車である。車両には同社のHK100型電車が使用されており、特別車両の「ゆめぞら」も使用されることがある。最高速度は110km/hだが、ほくほく線内では在来線最高の表定速度99km/hで運転し、越後湯沢駅から直江津駅までを57分で結ぶ。
 2015年11月現在、1往復が運行されている。このうち、越後湯沢発は東京発7時48分の上越新幹線「Maxとき305号」、直江津発は東京着20時12分の「Maxとき342号」と接続するようにダイヤが組まれている。


2. 登場の経緯

 ほくほく線では、越後湯沢駅と金沢駅を結ぶ特急「はくたか」号が運行されていたが、この列車は2015年3月14日に北陸新幹線が長野駅から金沢駅まで延伸開業したことに伴い、新幹線に置き換わる形で廃止となった。ほくほく線は、営業収益の実に9割を「はくたか」から得ていたため、新幹線の開業により非常に大きな打撃を受けることになる。北越急行ではこれを想定し、利益の積み立てを行ってきた。その額は130億円にも及び、これを切り崩していくことで30年は営業が続けられる見込みである。しかし、ただ“貯金”を切り崩していくだけでは先が見えている。「スノーラビット」は新幹線に対抗し、ほくほく線の置かれている厳しい状況を少しでも改善するための「切り札」として登場したのである。


3. 乗車

 関東地方からスノーラビットに乗車する場合、新幹線あるいは在来線で越後湯沢駅まで行き、そこから乗車するのが正攻法であると思われるが、筆者は反対側の直江津駅から乗車することにした。
 列車が入線してきた。うれしいことに、「ゆめぞら」で運行されるようである。さらにうれしいことに、ほくほく線で唯一の2両固定編成であるHK100型100番台であった。
直江津駅にて

写真1 直江津駅にて
 ここで、「ゆめぞら」について簡単に解説する。ゆめぞらとは、長大トンネルが多いほくほく線の特性を活かした特別車両である。トンネルに入ると、列車の天井が巨大なスクリーンに変わり、CGで制作された映像が上映される。上映トンネルは全部で5か所あり、それに合わせて5種類の映像が用意されている。今回乗車する「ゆめぞら」と「ゆめぞらU」の2種類があり、「ゆめぞら」では迫力のあるA方式映像と、ムードある雰囲気のB方式映像をそれぞれ楽しむことができる。
ゆめぞらU」HK100型100番台の車内

写真2 ゆめぞらU」HK100型100番台の車内
車端部の様子

写真3 車端部の様子
 17時55分、列車は定刻に越後湯沢に向け発車した。発車後まもなく、関川を渡ると車窓左側に多くの工場が立ち並んでいるのが見えてくる。その中でもひときわ大きな信越化学工業の工場が見えてくると、黒井駅を通過する。黒井駅には何本もの側線が設けられており、貨物の取り扱いも行っている。その後、工場地帯を抜け、鉄道防風林の中をしばらく走り、犀潟駅を通過する。
 ここからほくほく線へ入る。列車は単線の高架橋を駆け上がり、信越本線をオーバークロスして大きく右に進路を変える。北陸自動車道と交差すると、辺り一面に田園風景が広がる。どこまでも続いていそうな田園の中に、高規格な単線の高架がまっすぐ伸びる様子はなんともミスマッチである。
車窓に広がる田園風景

写真4 車窓に広がる田園風景
 しばらくこの田園地帯を走り、車窓右側に集落が見えると同時にくびき駅を通過する。くびき駅を通過するとまもなく、最初のトンネル(名称不明)に入る。このトンネルは短いため、映像の上映は行われない。トンネルを抜け、山と山に挟まれた里山の中を走り、大池いこいの森駅を通過する。野外活動施設「大池いこいの森」の最寄り駅であるが、周辺に人家は見当たらず、乗車人員もほくほく線内で最も低い。
 大池いこいの森駅を過ぎると列車は短いトンネルを通過し、その後すぐに第1・第2飯室トンネル(3,788m)に入る。本来、このトンネルからゆめぞらの特徴である映像が上映されるはずなのだが、一向に始まる様子がない。どうやら、「ゆめぞら号」として運行される日時やダイヤが事前に決められており、それ以外のダイヤの場合では、例えゆめぞらの車両で運行されてもイベントは行われないようである。少々残念ではあるが、こんなこともあろうかと、筆者はゆめぞらの車両を使用した臨時列車「大地の芸術祭ゆめぞら号」に乗車していた。この列車は、3年に一度新潟県内で開催される“大地の芸術祭”に合わせて運行される臨時列車である。終着が途中のまつだい駅であることから、すべての映像を見ることはできなかったものの、トンネル内で上映された数種類の映像を楽しむことができた。上映中の車内は写真5のようになっており幻想的な空間である。
映像上映中の車内の様子

写真5 映像上映中の車内の様子
 飯室トンネルを抜け、家屋や水田を横目に開けた場所を走り、うらがわら駅を通過する。この駅は旧浦川原村(現在の上越市浦川原区)の中心部で賑やかなところにある。うらがわら駅の近くには、かつて新黒井駅と浦川原駅を結んでいた頚城鉄道の浦川原駅があり、古くから鉄道にゆかりがある地域であることが分かる。
 うらがわら駅発車後、300mほどの短いトンネルを抜け、まもなく虫川大杉駅を通過する。2番乗り場のホーム長は2両分しかないのに対し、1番乗り場のそれは9両分もある。これは、かつて運行されていた特急「はくたか」の臨時停車に対応するためである。駅近くには駅名の由来になった「虫川の大杉」がある。この大杉は樹齢1200年以上といわれる御神木で、高さ約30m、樹木の周長は約10.6mという全国でも有数の杉の巨木である。昭和12年には、国の天然記念物に指定されている。
 虫川大杉駅を通過し、しばらく水田の中を走ると、列車は深沢・霧ヶ岳トンネル(5,391m)に入る。このトンネルには途中、半地下のようになっている区間がある。正体は深沢トンネルと霧ヶ岳トンネルを結ぶシェルターである。現場は道さえ無い深い山の中であるため、雪や雪崩から線路を守るためこのような構造になっているのだろう。
 深沢・霧ヶ岳トンネルを抜けるとまもなくほくほく大島駅を通過し、ほぼ同時に鍋立山トンネル (9,130m) に入る。このトンネルは着工から完成までに実に22年を要し、ほくほく線建設の上で屈指の難工事だった。完成までに22年もかかった要因には国鉄再建法による北越北線 (ほくほく線の前身) の工事凍結なども挙げられるが、一番の要因は泥火山という地質によるものである。トンネルの一部区間を掘削する際、地下深くの粘土が地下水やガスなどとともに大量に噴出した。この地質を攻略するため、ありとあらゆるトンネル工法が試されては消えていった。現在都市部の地下トンネルを掘削するのに広く用いられているトンネルボーリングマシン (TBM) が起死回生の策として投入されたものの、猛烈な土砂の押し戻しに耐えられず、発進位置よりも40m近く押し戻された上に土圧によって破壊されてしまったという有様である。最終的に様々な薬液を地盤に注入したうえで手掘りのシールド工法により前進し、ついに1992年 (平成4年) 10月29日に導坑の貫通に成功した。そのような苦労がまるで無かったかのように列車はトンネルを快走する。
 鍋立山トンネル内には儀明信号場があり、列車の交換が可能である。闇の中に突然信号の灯が現れ、線路や速度制限標識をうっすらと照らす様子はなんとも趣深い。特急「はくたか」が運転されていたときは列車の交換が行われていたが、現在も行われているのかは不明である。
 鍋立山トンネルを抜けると、まつだい駅を通過する。前述した「大地の芸術祭」が付近の松代エリアにて開催されており、車窓から数点の現代美術を眺めることができた。松代はほくほく線発祥の地であり、駅前にはほくほく線の計画から完成までの66年間のあゆみを記した石碑が設置されている。
 まつだい駅通過後、列車は小規模なトンネルをいくつか通過したのち、薬師峠トンネル (6,199m) に入る。このトンネルにも列車交換のための薬師峠信号場が設けられている。トンネルを抜けると信濃川を渡り、列車は左に進路を変え、JR飯山線と並走する。車窓から水田が消え、十日町市街の中心に入る。まもなく、唯一の途中停車駅である十日町駅に到着する。十日町駅にて乗客が多数乗車し、それまで空席が目立った車内は一気に賑やかになった。
 十日町駅を出発した列車はしばらく飯山線と並走したのち、今度は左に大きく進路を変える。カーブを抜けるとまもなく、しんざ駅を通過する。十日町駅としんざ駅の駅間距離は、ほくほく線内最短の1.5キロである。
 しんざ駅通過後、列車は赤倉トンネル (10,472m) に入る。このトンネルはほくほく線内で一番長いトンネルに加え、内部には有名な美佐島駅や赤倉信号場が設置されており、特徴的である。トンネル進入後1分ほどで美佐島駅を通過する。通過に要する時間は約1秒強で、ほとんど一瞬である。この様子について動画を撮影したので、ぜひご覧になっていただきたい。
美佐島駅通過の様子

動画1 美佐島駅通過の様子
 赤倉トンネルを抜けるとすぐに魚沼丘陵駅を通過する。余談だが、筆者はこの駅だけホームを確認することができなかった。魚沼丘陵駅通過後、車窓には再び一面の田園風景が広がる。水田の中を駆け抜けながら列車は右に進路を変えJR上越線との接続駅である六日町駅を通過する。六日町には北越急行の本社があることに加え、南魚沼市の市役所もあり、市街地が広がっている。そのような駅をあえて通過するところから、北越急行がスノーラビットにかける信念が伝わってくる。
 六日町駅通過後、列車は上越線に入り、塩沢、上越国際スキー場前、大沢、石打の各駅を通過する。そして18時53分、列車は定刻に越後湯沢駅0番線に滑り込んだ。
越後湯沢駅0番線にて

写真6 越後湯沢駅0番線にて
「ゆめぞら」のロゴマーク

写真7 「ゆめぞら」のロゴマーク


4. おわりに

 いかがだっただろうか。この記事を読んで、超快速「スノーラビット」ならびにほくほく線に乗車していただけたら、筆者として大変喜ばしい。
 ほくほく線は、最高速度160km/hで走行可能な線路、いくつもの長大山岳トンネル、3つのトンネル内信号場、しんざ駅やほくほく大島駅、美佐島駅など利用者数の割にかなり立派な駅舎など様々なところがハイスペックである。それにも関わらず、ローカル線であるというギャップが大変魅力的だと筆者は思うのである。
 特急「はくたか」が廃止され、ほくほく線の経営は今後厳しいものになるのが明白となっている。地域の足として、そして越後湯沢、十日町、直江津間の都市間輸送として、末長く活躍してくれることを願ってやまない。


参考文献
  • 北越銀行:「ゆめぞら」、http://www.hokuhoku.co.jp/yumezora.html、2015年10月参照
  • Techno Treasure:「Treasure Reports 番外編 第十四章 北越急行ほくほく線 第5節 鍋立山トンネル<上>」、http://technotreasure.info/Cool2/page017.html、2015年10月参照
  • 東洋経済オンライン:「超快速で北陸新幹線に挑むあの路線の真意」、http://toyokeizai.net/articles/-/79003、2015年10月参照


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