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〜 東京都交通局 10-300形について 〜

交通システム工学科2年 4066番 F.T

1. はじめに

 東は千葉県の本八幡、西は神奈川県の橋本と、東京都を横断するように活躍する都営新宿線の車両。2015年には新たな車両のデビューがあった。本項ではその中で「10-300形(いちまんさんびゃくがた)」と呼ばれる形式について記述する。
直通運転する京王線内で顔を並べる都営新宿線の車両たち

写真1 直通運転する京王線内で顔を並べる都営新宿線の車両たち


2. 1次車(37編成〜48編成)について

 新宿線開業時から使用されていた10-000形のセミステンレス車の置き換えのために2005年に8両編成×12本(96両)が登場した。車体や走行機器をはじめ、機器類では先に登場したE231系800番台と同一のものを使用している部分が多く、走行音はE231系と同じである。なお、車両断面の形状は雨樋を車両限界に収めるために台形に近い形状をしている。電動車と付属車の構成(MT比)は5M3Tであり、E231系列には無い1M車が存在している(これは相鉄10000系と同じである)。車内は「シンプルかつモダン」をイメージコンセプトとしてグリーン系の色で統一されている。前面は複雑な曲面と後退角で構成されており、前照灯は上部に2灯、尾灯と識別灯は左右腰部にスリット状にそれぞれ取り付けられている。また、マスク側面に16本のビートが表現されているのも特徴である。余談であるが、37編成が10-370Fと呼ばれることから、「31編成〜36編成はどうしたのか?」という疑問が出てくるが、そこには10-300R形6編成が充てられている。なお、30編成は欠番である。
現在も8両編成で活躍中の44編成

写真2 現在も8両編成で活躍中の44編成


3. 2次車(45〜48編成に組み込まれた新造中間車)について

 2010年度から、輸送力増強と混雑緩和を目的として新宿線の10両編成化が進められることが発表された。その中で10-300形1次車のうち4編成が10両編成化された。その時新規に組み込まれた中間車(電動車、付随車)2両×4編成分(8両)が2次車である。10-300形は開発時から10両編成化を見込んでいたが、パンタグラフの離線対策や保守作業の簡易化が問題となり、当初とは計画を変更して中間車が組み込まれた。新造にあたって、車内の腰掛の袖仕切り板やドア開閉部分の注意喚起を促す黄色着色などのユニバーサルデザイン化が図られた。E233系が登場している頃だが、車体構造や外見、走行装置などは1次車に合わせられた。なお組み込みの際、1次車は部分的な車番の変更やパンタグラフの撤去などが施され、該当編成の前面には10両編成であることを示すステッカーが貼られた。現在、定期検査などの入場毎に細かな仕様変更が続いているので、1次車と2次車との差異は妻面の扉のイチョウマークくらいである。
8両編成の1次車に、新造した2次車を組み込み10両編成となった48編成

写真3 8両編成の1次車に、新造した2次車を組み込み10両編成となった48編成
前面の非常用貫通扉に“10CARS”のステッカーが貼られている


4. 3次車(49編成〜51編成)について

 2010年度に新宿線のサービス向上を目的として10両編成化が進められることは前項で伝えたが、2013年度には在来の8両編成3本を10両編成3本で置き換えることになった。この際新製されたのが3次車にあたる10両編成×3本(30両)である。2次車まではE231系800番台をベースとして開発されていたが、3次車以降はE233系2000番台が車体設計のベースとなっており、大きく外見が変化した。基本的な仕様は2次車までの機器との互換性が考慮されており、その一例として外見がE233系ベースであるにも関わらず台車が従来と同じものを採用している。VVVF装置はE233系列と同等のものが採用されており、走行音は209系IGBT更新車のような音である。前面はE233系2000番台の顔をベースに新車であることが明確に分かるデザイン、側面は今後導入が考えられるホームドアを設置した場合を考慮して車両上部を強調できるものとしている。従来路線カラーの黄緑色と紺色の帯が巻かれていた側窓下部には、紺色の細いラインだけがドア部を除いて貼られた。車内面に関してはドア上の旅客向け案内サービスが3色LED表示に代わってLCDモニタが1基取り付けられ、従来よりも格段とわかりやすい案内となった。ドア自体も、E233系同等の複層ガラス仕様のものに変更された。その形状は東急5000系列と同等のものであるが、化粧板の貼り付けは見送られている。その他の車内設備も2次車までのものを基本的に踏襲しているが、座席モケットの変更や座り心地の改善などが行われており、定員も変化している。運転室関係では、速度計のアナログ方式からグラスコクピット方式になった。また、デジタル化に際して新宿線と直通する京王線内では従来、種別表示器などの機器は別々のものを使用していたが、モニタ内に集約された。3次車では京王線内の自動放送も搭載された。
10両編成で登場した3次車にあたる50編成

写真4 10両編成で登場した3次車にあたる50編成
E231系をベースに開発された2次車以前と比較すると大きく外見が変貌した。
前面マスクはE233系2000番台とほとんど同じである。


5. 4次車(52編成〜54編成)について

 3次車に引き続き、新宿線のサービス向上を目的として10両編成化が進められることとなり、2015年度にも在来の8両編成3本を10両編成3本で置き換えることになった。この際新製されたのが4次車にあたる10両編成×3本(30両)である。大まかな仕様は3次車と同様であるが、3次車とデザインや仕様が変更されている部分もある。前面では、都営交通のイチョウマークが3次車では銀色だったものから4次車では緑色となった。また、10両編成であることを示す“10CARS”のステッカーの場所も、3次車では行先表示器・尾灯・識別灯の横に貼られていたが4次車では非常用貫通扉上部に貼られた。3次車の側面では、窓下腰部の帯が紺色だけがドア部を除くように巻かれていたが、4次車では紺色の下に黄緑色の帯も追加された上でドアにも帯が巻かれた。続いて、車内面ではまずドア上のLCDモニタが1基から2基に増設され、左側の表示器で交通局や東京都の事業PRや告知などを行うようになった。また、空調機器の改善も行われ空気清浄機機能も追加された。その他、車椅子スペース周りの袖仕切りと窓の間にピラーが設置され不自然な隙間がなくなり、乗務員室直後の客室側の手すり形状が窓下に埋め込まれている仕様(E233系列と同じもの)に変更されるなどの改善が行われた。運転室関係ではTIMSに運転士画面での運行番号の常時表示や車掌画面でのLCD画面増設関係などといった仕様変更がされた。その他、コンプレッサーの変更や、フィルタリアクトルの整風板の黄色着彩、妻面機器のホームドア対策など3次車と異なる部分も多い。
3次車に続いて10両編成で登場した4次車にあたる53編成

写真5 3次車に続いて10両編成で登場した4次車にあたる53編成
3次車を元に細かい改良がなされた。
左から、1次車・3次車・4次車

写真6 左から、1次車・3次車・4次車
それぞれの違いを見比べていただきたい。
どれもE231系やE233系を基本としているがその顔立ちは引き締まっている。


6. 最後に

 自分にとっても、よくわからなかった違いなどを知る良い機会になった。
 この記事を見て、少しでも10-300形に興味を持つ方が増えるといいなと思う。
 取材などにご協力いただいた運転士のNさん、車掌のIさんありがとうございました。


参考文献
  • 「E231/E233 Hyper Detail」、イカロス出版社、2008年
  • 「とれいん No.397 京王線特集」、エリエイ プレス・アイゼンハーン社、2008年
  • 東京都交通局:「都営新宿線に新造車両がデビューします」、http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/newsevent/news/subway/2015/sub_p_201505084942_h.html、2015年8月参照
  • 総合車両製作所:「東京都交通局 10-300形」、https://www.j-trec.co.jp/rw/tmt103.html、2015年8月参照
  • 総合車両製作所:「東京都交通局 10-300形電車(3次車)」、https://www.j-trec.co.jp/company/jtrec_techreview/jtr02_chapter/jtr02_88-93.pdf、2015年8月参照
  • 鉄道ホビダス:「東京都交通局10-300形4次車登場」、http://rail.hobidas.com/blog/natori/archives/2015/05/21_18.html、2015年8月参照


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