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〜 工臨の魅力 〜

交通システム工学科2年 4041番 K.G

1. 概要

 工事臨時列車、臨時工事列車、工事用資材輸送列車… 呼び方は様々である。
 一般人からすれば「ただの貨物列車」に見えるかもしれないが、実は鉄道を運行する上では欠かすことのできないレールやバラストを輸送しており、日々の安全な鉄道輸送を裏で支える重要な列車なのである。
基本的にJR旅客各社のバラストやレールを輸送する列車のことを総称して「工臨」と呼ぶ。各地で運行される工臨は発送先や発送元の場所を頭にして「○○工臨」と呼ぶことが多い。
ここではJR東日本管内、特に首都圏近郊で運転される「工臨」について触れていきたい。


2. レール輸送

 レール輸送はロングレール輸送と定尺レール輸送の二種類に分けることができる。前者にはロンチキと呼ばれる200メートル前後に溶接されたレールを輸送するロングレール輸送専用貨車、後者は25メートルのレールを輸送するため主にチキ6000形が使用される。ロンチキにはABCの3編成が存在する。
レールは全て越中島にある東京レールセンターから発送され、総武本線小岩駅からレールセンター最寄りの越中島貨物駅までを結ぶ越中島支線を介して、新小岩操作場まで回送される。越中島貨物〜新小岩操車場間は運休する日もあるが1日3往復が設定されており、宇都宮運転所所属のDE10型ディーゼル機関車が牽引を担当。レールはこの新小岩操作場から各地へ輸送される。

ロンチキA編成 西国分寺駅にて

写真1 ロンチキA編成 西国分寺駅にて


3. バラスト輸送

 首都圏で見られるバラスト輸送は主に3つ。小野上工臨、西金(水戸)工臨、初狩工臨と呼ばれるものである。これらの列車は臨時扱いであるが特に小野上工臨と西金(水戸)工臨はかなりの高頻度で運転されており、週に数往復運転されることがある。いずれも貨車はホキ800型が使用される。
 群馬県渋川市の小野上駅、茨城県太子町の西金(さいがね)駅、山梨県大月市の初狩駅のすぐ近くには砕石場がある。そこでは安山岩が採掘され、バラストの生成が行われており、首都圏のJR線の多くはこれらのバラストが使用されている。


4. 運転線区に合わせた様々な牽引機

 工臨を運転するには貨車を引っ張る機関車が必要である。JR東日本では線区の特性に合わせた様々な機関車が使用され、撮影する側を楽しませてくれる。

4-1. EF65型直流電気機関車(1000番台)

 JR東日本田端運転所に所属するEF65型1000番台。旅客用のP型と貨物用のF型の両方の性能を兼ね備えた、いわゆる「PF」型である。首都圏の工臨の多くはこのPFが担当する。
工9866レ EF651103+ロンチキB13両 越谷レイクタンにて

写真2 工9866レ EF651103+ロンチキB13両 越谷レイクタンにて
東海道線内でのレール卸し作業を終え、ロンチキが返却される。
工9773レ EF651105+ロンチキA13両 熊谷〜籠原にて

写真3 工9773レ EF651105+ロンチキA13両 熊谷〜籠原にて
いわゆる新津工臨と呼ばれる列車である。新小岩操〜高崎操をこのPFが担当し、高崎操〜新津は高崎車両センター所属のEF64が担当する。
工9866レ EF651118+ロンチキC13両 松戸〜金町にて

写真4 工9866レ EF651118+ロンチキC13両 松戸〜金町にて
配8937レ EF651103+DE10×2+ホキ800 東鷲宮〜栗橋にて

写真5 配8937レ EF651103+DE10×2+ホキ800 東鷲宮〜栗橋にて
 宇都宮所属のホキ800型は尾久で検査を受ける為、尾久〜宇都宮で定期的に配給輸送される。往復ともに毎週水曜に施行される傾向がある。写真ではDE10が2両連結されているが撮影時の偶然であり、普段は連結されない。

4-2. EF64型直流電気機関車(0番台)

 JR東日本高崎車両センターには5両、長岡車両センターには4両が在籍。元々勾配路線向けに製造された本形式は、工臨運用は主に中央本線と上越線となっている。
工9475レ EF64-38+定尺チキ4両 高尾〜相模湖にて

写真6 工9475レ EF64-38+定尺チキ4両 高尾〜相模湖にて
信州方面へのレール輸送。八王子を夕方か真夜中に出る2つのスジがある。
工8482レ EF64-39+ホキ800 猿橋〜鳥沢にて

写真7 工8482レ EF64-39+ホキ800 猿橋〜鳥沢にて
初狩駅でバラストを積み込み八王子へ向かう初狩工臨。
工9476レ EF64-37+定尺チキ6両 八王子〜西八王子にて

写真8 工9476レ EF64-37+定尺チキ6両 八王子〜西八王子にて
信州方面からのチキの返却輸送。
工9475レ EF64-39+ロンチキA13両 相模湖にて

写真9 工9475レ EF64-39+ロンチキA13両 相模湖にて
小淵沢へのロングレールの発送。写真は夕方発送スジで運転されたものだが、現在の中央本線でのロングレール輸送は深夜発送スジでの運転がほとんどである。
工9985レ EF64-37+ホキ800+EF64-38 八王子にて

写真10 工9985レ EF64-37+ホキ800+EF64-38 八王子にて
 深夜の八王子駅で出発を待つホキ工臨。直接現場でバラストを散布して折り返すため、前と後ろに機関車をくっつけるプッシュプル方式で運転される。この工臨は年に1、2回程度しか運転されないため、深夜にも関わらず多くの撮り鉄が集まる。

4-3. EF81型交直流電気機関車

 JR東日本田端運転所に所属するEF81は6両。かつては北斗星カシオペアの先頭に立っていたが今ではEF510にその座を譲り、工臨やイベント、訓練列車に使われている。工臨の運用では主に常磐線で使用されている。水戸・いわき方面のロングレール輸送や西金のバラスト輸送など、常磐線の工臨全般を担当。稀に東海道方面や新津工臨などに充当されることもある。
工9773レ EF81-81+定尺チキ10両 熊谷〜籠原にて

写真11 工9773レ EF81-81+定尺チキ10両 熊谷〜籠原にて
工9774レ EF81-95+ロンチキB13両 深谷〜岡部にて

写真12 工9774レ EF81-95+ロンチキB13両 深谷〜岡部にて
珍しくEF81が新津工臨に充当された際の写真。新小岩操から新津まで通しでEF81が担当した。
EF81-97+ホキ800 新小岩操〜金町にて

写真13 EF81-97+ホキ800 新小岩操〜金町にて
西金駅で積み込まれたバラストを輸送するホキ工臨。新小岩操〜水戸をEF81、水戸〜西金をDE10が担当する。

4-4. DD51型ディーゼル機関車

 JR東日本高崎車両センターに所属するDD51は4両。ディーゼル機関車であるが非電化区間での運用はほとんどなく、工臨では吾妻線と上越線が主な活躍場である。高崎から八高線の毛呂駅まで工臨スジがあるが、ここ数年は運転されていない。
工8191レ DD51-895+ホキ800 井野〜新前橋にて

写真14 工8191レ DD51-895+ホキ800 井野〜新前橋にて
小野上工臨の返却輸送である。
工9190レ DD51-895+定尺チキ2両+DD51-897 新前橋〜群馬総社にて

写真15 工9190レ DD51-895+定尺チキ2両+DD51-897 新前橋〜群馬総社にて
こちらは中之条工臨と呼ばれる列車。レール卸し現場である中之条駅では機回しができないためプッシュプル方式で運転される。小野上工臨と比べると運転頻度はかなり低い。

4-5. DE10型ディーゼル機関車

 JR東日本宇都宮運転所所属のDE10は10両。工臨では新小岩操〜越中島貨物の他に水郡線と房総方面全般を担当している。入れ替え用の機関車と思われがちだが、堂々とロンチキを牽いて本線を走行することもある。
工9581レ DE10-1751+ホキ800 本八幡にて

写真16 工9581レ DE10-1751+ホキ800 本八幡にて
鹿島方面へのホキ工臨。房総各地への工臨はレール、バラスト問わず全てDE10が牽引する。

4-6. ED75型交流電気機関車

 首都圏とは少し言い難いが、”一応”首都圏近くで見ることができるので…
 JR東日本仙台車両センターには3両のED75が配置されている。工臨では主に東北本線黒磯以北、磐越西線などで活躍している。

工9593レ ED75-759+ロンチキ岩切車13両 東白石〜北白川にて

写真17 工9593レ ED75-759+ロンチキ岩切車13両 東白石〜北白川にて


5. おわりに

 現在、JR東日本や北海道、西日本、九州の工臨はこのように機関車が貨車を牽引する方法で運転されているが、JR東海はキヤ97系と呼ばれる自力走行が可能なレール輸送車を開発し、いち早く機関車牽引による工臨を全廃した。実際のところ、JR東日本でも機関車や貨車の老朽化がそろそろ出始める頃が近づいており、置き換えが検討されていてもおかしくない。その際は新たな工事資材輸送用の機関車と貨車が必要になってくるが、検査周期の違いや機回しなどによる運用の煩雑性を考慮すると機関車や貨車の新造は考えにくい。そうなると、いずれかはJR東海キヤ97系のような車両に統一されることも否定はできない。
 やはりこの「牽引機関車の多様性」がJR東の工臨で一番の醍醐味、なのではないだろうか。


参考文献
  • 貨物ちゃんねる:「貨物ちゃんねる」、http://kamo.apreed.com/、2015年8月参照


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