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〜 東武鉄道10000系列 〜

交通システム工学科1年 5008番 T.I

1. 概要

 東武鉄道10000系列は、東武10000系、東武10030系、東武10050系(東武10030系50番台とも呼ばれる)、東武10080系の4系列の総称である。すべて地上専用車で、8000系で運行されるワンマン区間と、曳舟―押上間以外の全区間で運用されている。車体は軽量ステンレス工法で製造され、10000系はコルゲート、それ以外は押出ビートとなっている。20m4扉構成で10000系は4-7-7-7-4の座席配置であったが、10030系以降はシートピッチを25mm広げ450mmとしたため3-7-7-7-3の座席配置に変更されたほか、ドア位置も少し変わった。帯の色は野田線以外マルーンで、野田線は上の細い帯が黄緑、中央の帯は水色となっている(通称ファミマ色)。アルナ工機、東急車輛、富士重工の3社が分担製造した。制御装置は10080系以外界磁チョッパ制御で、日光線の勾配区間に対応するため、抑速ブレーキも備えている。台車構造は10000系が車体直結式で、10030系以降はボルスタレス式を採用した。軸箱支持はすべて共通してS型ミンデン式を使用している。編成両数はすべて偶数でMT比は1:1に揃えられている。
 また、本形式以降車両番号が5桁となり、編成両数、および号車を見分けることが可能となった。
東上線の東武10050系

写真1 東上線の東武10050系
番号表記の見方

写真2 番号表記の見方
東武10000系の車内

写真3 東武10000系の車内


2. 東武10000系について

 東武10000系は1983年(昭和58年)より製造を開始した地上用通勤型電車である。主な製造の目的は、支線などに残っていたモハ78形の車体更新である旧性能電車5000系列の淘汰と8000系を20年間にわたり製造していたことによる技術面での後れを取り戻すこととされている。2、4、6、8連でそれぞれ製造された。その後1989年(平成元年)に、東上線用8連の一部の編成は中間車2両を追加し10連となった。1988年(昭和63年)の時点で押出ビート式である10030系の製造に移行していたが、追加した2両は床などの装飾以外すべて10000系の仕様に合わせられた。2007年(平成19年)から11601Fを皮切りとしてリニューアル工事がすすめられている。尚、東上線に10000系のリニューアル車は配属されていない。中間車2両を組み込まなかった11801F+11201F、11802F+11202Fについては東上線T-DATC化の対応工事を行わず、本線に転属し更新工事を受けた。工事内容は、シートのモケット交換、ドア上に3色LED案内表示器の設置、車いすスペースの新設、自動放送装置の搭載などである。2010年以降の施行車については照明が蛍光灯からLED照明に交換され、案内表示器についてはコイト電工製の横長LCD式のものとなった。
床の色の違い

写真4 床の色の違い
10連の東上線用10000系

写真5 10連の東上線用10000系
東上線所属時の11802F+11202F

写真6 東上線所属時の11802F+11202F
リニューアル工事を受けた10000系

写真7 リニューアル工事を受けた10000系
11005Fの走行音 (ふじみ野〜鶴瀬間)

動画1 11005Fの走行音 (ふじみ野〜鶴瀬間)


3. 東武10030系について

 10030系は、車体の補強手法をコルゲート加工から押出ビート加工に変更し、前面デザインを6050系ベースにしたマイナーチェンジ車である。登場は1988年(昭和63年)で、2、4、6、10連が製造された。地上専用車で10連を製造したのはこれが初めてである(初めて10連で新造したのは9000系)。10000系と同様、2007年からリニューアル工事がすすめられている。尚、東上線11032F、11639F+11443Fの2編成については制御装置をIGBT素子VVVFインバーター制御に交換する工事も行われた。これは、60000系と共通の物である。
東上線の10030系

写真8 東上線の10030系
リニューアル工事を受けた10030系

写真9 リニューアル工事を受けた10030系
コイト電工製の横長LCDモニター(クハ10032)

写真10 コイト電工製の横長LCDモニター(クハ10032)
VVVF化された11032Fの走行音 (準急列車の池袋〜川越市)

動画2 VVVF化された11032Fの走行音 (準急列車の池袋〜川越市)


4. 東武10050系について

 10050系は、10030系の内装を一部変更した車両である。10030系50番台とも称される。登場は1993年(平成4年)で2、4、6連が製造された。主な変更点は、車内に車いすスペースを設置したこと、分散式冷房のカバーを一体型にしたことなどである。10050系は製造年数が比較的若いため、まだリニューアル工事を受けた編成はいない。東上線に配属されている車両は10030系に比べると少ない。また、本線所属の11267Fは東武初のシングルアームパンタグラフ車で登場した。
クーラーカバーが一体化された10050系

写真11 クーラーカバーが一体化された10050系
野田線色に塗り替えられた10050系

写真12 野田線色に塗り替えられた10050系


5. 東武10080系について

 10080系は、1988年(昭和63年)に登場したGTOサイリスタ素子VVVFインバーター制御車両である。東武鉄道においてVVVFインバーターを初めて採用するといった試験的な要素も含んでいる。製造は11680Fの1編成6両のみである。10000系や10030系とも併結できるように主電動機や歯車比は揃えられている。2007年には、VVVFインバーター装置を50000系列と同等のIGBT素子のものに交換した。


6. 東武鉄道の車両動向(10000系登場〜現在まで)

 東武鉄道は路線長が関東最長で、私鉄の複々線距離においては日本一であることから、車両保有数も非常に多い。今回はその中の1系列である10000系列について述べた。先述の通り、この10000系列の製造目的は釣り掛け式の5000系列を淘汰することであるが、実際にその目標が達成できたのは30000系製造後であった。
 私鉄における車両製造数日本一の8000系を置き換え対象として製造された車両は50000系が初めてであったりする。実際、それまでの8000系の動向をみると、2004年に800・850型を製造した際の余剰として中間車の8900型を廃車していたに過ぎず、老朽化が原因となり廃車されたのは、5000系列が消滅した2007年以降である。8000系の廃車も最近は落ち着いてきており、ワンマン運転区間ではまだまだ活躍を続けている。
 次の廃車候補は10000系列に他ならないだろうが、10000系列は現在に至るまで1両も廃車されておらず、置き換えの発表も特に無いため、しばらくは安泰だと思われる。しかし、今後どうなるかはわからない。少なくともリニューアル工事を受けた車両はまだまだ活躍するだろう。噂では8000系ではなく、10000系列をワンマン化して運用する予定であったらしいが、機材の設置スペースの問題で8000系になったと聞いたことがある。もしこの噂が本当であれば、10000系列は8000系より先に消滅する可能性もある。また、半蔵門線直通の際は10030系を改造する計画もあったが、断念した。どれだけ10030系を改造したくないのだろう。9000系には容赦なく手を加えているというのに。
 一方、地下鉄直通車はどうかというと、有楽町・副都心線用の9000系・9050系はリニューアル工事を受けており、もうしばらく活躍してくれそうだ。9101Fのみ未更新車であるため、2013年3月16日のダイヤ改正時には“快速”など新種別が生まれたこともあり、引退も予想されていた。しかし、わざわざ9101F専用(というか9000系の幕車が1本しかいない)に方向幕を更新してしまったあたり、まだまだ廃車は先ではないかと思われる。9101Fの側面の方向幕は壊れやすいことで有名だが、あれは5050系と共通のものである。まだ部品は残っているらしいが今後故障した場合はそのまま放置されるか、LED行先表示器に更新される日も近いかもしれない。
 50070系はすべて製造10年以内であるので、特に目立った動向はない。日比谷線直通用の20000系列については、東京メトロ13000系とほぼ同等の設計で70000系を製造することが発表されたため、置き換えられる前にしっかりと記録しておくとよいかもしれない。
 半蔵門線直通用の30000系は、ほとんど50050系に直通先の保安機器を移植し、一時期は本線の地上運用にあたっていたが、10連仮固定の改造とT-DATCを搭載したうえで東上線に転属してきた。現在、半蔵門線・田園都市線の直通運用を行える30000系は2本のみである。この影響で主に10000系列が東上線から本線や野田線に転属した。もともと東上線所属の10050系は少なかったが、この転属でほとんど見かけることがなくなってしまった。
 本線は一時期、0ドア車から6ドア車までをすべて見ることできた貴重な路線であったが、田園都市線5000系の6ドア車消滅、続いて20000系列がこれから廃車になることにより、5ドア車が消滅してしまうと思うと、少し名残惜しくも感じる。東武からしてみれば、“車両は20m車に統一する”という戦前からの計画がようやく成し遂げられる、ほっとしているのかもしれないが。18m車になったのは将来を見る目がない東急と営団のせいだ。
 特急用の100系は、近年塗装変更がたびたび行われスカイツリーや日光観光をアピールしている。200系、300系、350系に目立った動向はないが、500系新造が発表され、どこまでが置き換え対象なのか気になる。尚、東武鉄道が3両編成の列車を新製するのはこれが初めてである。
 近郊用の6050系は、スカイツリー開業後に634型に改造された2編成を除いて特に動向がないが、6000系から改造されたものについては車歴50年を超える。そろそろ置き換えが決まっても不思議ではない。が、そんな話は全く耳にしない。置き換える気はあるのだろうか。
 以上が簡単な東武鉄道の車両動向だ。細かい部分については多少説明を省いたが、ご容赦いただきたい。
東上線を引退した8175F+8505F

写真13 東上線を引退した8175F+8505F
快速の幕が追加された9101F

写真14 快速の幕が追加された9101F


7. 最後に

 さて、今回のEXPRESSは“地元の車両”というテーマであったが、10000系列を主にしたのは、東上線の池袋口から8000系が引退し、ようやく主力になったというイメージがあるからだ。私が小学生のときは、東上線といえば8000系で、銀ピカに光る9000系や10000系列はとても新鮮だった。勿論8000系も好きで、よく言われる8000系のブレーキシューの焦げる臭い(通称、東武臭)は、私にとって「ああ電車に乗ったんだなぁ」と思える思い出深い匂いである。実はその匂いは、10000系列でもすることがたまにあるのだ。10000系列は基本的に19km/hで回生を切る。そのため、19km/h以下で少し強めのブレーキをかけるとすべて自動空気ブレーキに切り替わる。そうすると、あの匂いがするのである。特に池袋駅は停止位置30m手前にATSの15km/h照査があるため、特にその匂いを嗅ぐことが出来るスポットである。そんな思い出のある10000系列が古参扱いされるようになる前に、しっかりと記録したいという思いもここに込められている。いつか引退するその日まで、東武ファンとしてしっかりと見届けていきたい。そして、その魅力が一人でも多くの人に伝われば僥倖である。


参考文献
  • 「鉄道ファン No.454」、交友社、pp.40-43、1999年2月号(Vol.39)
  • 「私鉄車両編成表2010 ジェー・アール・アール編」、交通新聞社、pp.35-41


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