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〜 伊豆箱根鉄道大雄山線の車両 〜

交通システム工学科1年 5030番 Y.O

1. 大雄山線の概要

 伊豆箱根鉄道大雄山線は、神奈川県西部のターミナル駅である小田原駅から、南足柄市の中心駅である大雄山駅までの9.6kmを走る路線である。大雄山最乗寺へのアクセス路線として1925年に相模広小路(廃駅)〜大雄山間で開業。1935年には現在の小田原駅に乗り入れ、路線が全通してから今年で開通90周年を迎えた。単線で無人駅ばかりといういかにもローカル線然とした雰囲気があるが、早朝深夜を除いて12分間隔で列車が走り、最乗寺へのアクセスはもとより沿線住民の生活の足として重要な役割を担っている。


2. 大雄山線の車両

 大雄山線には現在、2形式の電車と車籍を持っていない工事用車両が存在する。なお営業運転に使用されているのは5000系のみである。5000系の導入以前は、国鉄や相模鉄道(さらに元をたどれば鉄道省時代)からの譲渡車―いわゆる旧型国電―のみで全列車の運行を担っており、その多種多様な経歴から多くの鉄道ファンの注目を浴びていた。しかし1984年に5000系の導入が始まり、1996年までに1両を除いてすべて5000系に置き換えられている。

2-1. 5000系の紹介

 前述のとおり雑多な旧型車両を置き換えるために導入された5000系であるが、この車両も導入されるにつれてマイナーチェンジが積極的に行われ、3両編成7本という陣容の中にバリエーションがある。
 まず1984年に導入された第1編成(以下5501F、他編成も同様に表記する)は5000系で唯一の鋼製車体であり、車体色はヤマユリと青空をイメージした白と青のツートンカラーである。外装、内装ともに一足先に駿豆線に導入された3000系を基本としているが、緑町駅付近にある半径100mの急カーブに対応させるため車体長・幅を絞っているほか、これに合わせて全面・側面の窓を一体感のある大きなものに変更している。また行き先表示器は、標準的な幕式や矢印を使用した「小田原⇔大雄山」といったものではなく、あらかじめ小田原と大雄山を表示して行き先であるほうを後ろから照らして表示する「バイナリーヘッドマーク」という方式がとられている。これは営業列車での行き先が両端駅のみで、回送列車の類も基本的に皆無であることから採用されたものである。余談だが、大雄山駅で入出庫する際や、大規模な検査が終了した後の試運転の場合は、どちらの表示もせずに走っている。運転台は旧型車に比べて大きく広がり、右手操作型のワンハンドルマスコンの採用など近代化が図られた。座席はすべてロングシートである。
5000系唯一の鋼製車5501F

写真1 5000系唯一の鋼製車5501F
 1986年に導入された第2編成では、最大の変更点として車体が軽量ステンレス製のものに変更となった。205系や211系の大増産が始まったころの導入であるが、当時全国的には軽量ステンレス車体はまだそれほど多い存在ではなく、ある意味では流行の最先端を行く車体となっていた。なお全面デザインはFRPでまとめられており5501Fとほとんど変わっておらず、車内もほぼ同様のつくりとなっている。
5502F

写真2 5502F
 次に導入された第3編成ではライト周りのつくりが若干変更され、車内では車端部の貫通扉が省略されている(のちに5501F/5502Fの扉も撤去)。
 平成元年導入の第4編成では、基本的に5503Fと比較して基本的に変更点はないものの、導入当初は先頭車の側面にある伊豆箱根鉄道の社紋が他車のような青色ではなく赤色となっていた。
 次に導入される第5編成であるが、この編成が導入される数年前から駿豆線では快速列車が運転されており、この快速の初代専用車両となった3000系の3501Fでは、中間車を指定席車両として使うために座席を従来のボックスシートから転換クロスシートに改造していた。この社内ブームに乗るかのように、5505Fでも中間車両の扉間の座席を従来のロングシートから転換クロスシートに変更した。また各車両の側面に小型のLED式行先表示機を設置した。
5505F 2015年夏には「妖怪ウォッチ」とコラボした列車として運転されていた

写真3 5505F 2015年夏には「妖怪ウォッチ」とコラボした列車として運転されていた
 5000系の変化はまだまだ止まらず、第6編成では全車両の扉間の座席を転換クロスシートとした。このときもまた、登場数年前に駿豆線で快速専用車両としてオールクロスシートの7000系が導入されており、下枠交差型のパンタグラフやLED式のテールライト、車内の案内表示機など7000系で初導入された技術が5506Fに反映されている。既存の5000系と比べると、前述の内装変化のほか外装では先頭部に小型のスカートを設置、これまで最大の特徴だった前面のバイナリ―ヘッドマークを取りやめLED式の行先表示とした。ちなみにこの表示機では小田原/大雄山以外に回送と試運転の表示を出すこともできる。
 最後に導入された第7編成も、5506Fと比べてコンプレッサーが変更され、当初から車いすスペースを設置するといった変更がなされた。
5506F これは検査明けの試運転中で、貴重な試運転表示を出している

写真4 5506F これは検査明けの試運転中で、貴重な試運転表示を出している
 以上が5000系の陣容であるが、大雄山線にはこれ以外に「ヌシ」ともいえる車両が存在する。次はその車両を紹介しよう。

2-2. コデ165形

 コデ165は、深夜の工事列車や5000系の検査時に車両を小田原駅まで輸送するための機関車代用として使用されている電車である。実際車内の座席はほとんどが撤去され、大きな機器が鎮座しているなど機関車然としているが、約20年前までは営業線で旅客輸送をしていた電車である。ちなみに「コデ」というのは、「コ」ウジ「デ」ンシャの略である。
コデ165

写真5 コデ165
 この車両を語るうえで欠かせないのがその数奇な歴史だ。何せ伊豆箱根鉄道の内部ですらその生い立ちに諸説あるほどなのである。一番可能性が高いといわれている説は、昭和3年に鉄道省の30系列の1両(モハ30166)として生まれ1960年ごろに相模鉄道に移籍。相鉄2000系として営業運転を行った後、車体を「相鉄で新製の車体に載せ替えた車両」と交換してから1976年に大雄山線に譲渡され、1996年まで「モハ165」として営業運転をしていたというものである。この他の説を見ても生まれはモハ30系列の1両となっており、今や同系列最後の生き残りである貴重な車両であることは間違いないとされている。
  「コデ」となるにあたっては、両運転台化や機器の増設・移設工事を行い、塗装は赤電と呼ばれていた赤とベージュのツートンカラーから、工事用車両を示す黄色に酒匂川をイメージした青いイナズマを配す派手なものとなった。
 コデ165は、5000系が駿豆線の工場で定期検査を受けるために甲種輸送されるときや、深夜にレール輸送等を行う際に車両をけん引している。1年を通して大雄山駅の車庫に留置されていることが多く走行する機会はあまりないが、年に数回行われる5000系の検査に伴う輸送は、大雄山線の特性上営業列車を一部運休にして白昼堂々行われるため、この時は多くの鉄道ファンが撮影に訪れている。3両編成の5000系を力強く引く、御年87歳とは思えない様子はどこか頼もしさを感じるものがある。
入場する5502Fを引くコデ165

写真6 入場する5502Fを引くコデ165

2-3. その他の車両

 以上2形式のほか、大雄山線には工事用車両としてトム1形という無蓋貨車と、バラスト散布車、モーターカーが存在する。このバラスト散布車とモーターカーは元々、日本鉄道建設公団が北越急行ほくほく線のバラスト散布に使用していたものを伊豆箱根鉄道が購入したものである。車籍がないため営業時間帯に稼働することは限りなく0に近いのだが、夜間作業を行う前日などには大雄山駅に隣接する車庫で入れ替え作業を行っていることもあるらしい。余談だが、南足柄市に15年住み大雄山駅もよく訪れていた筆者ですら、この車両が動いているのはたった1度しか見たことがない。


3. まとめ

 以上が大雄山線の車両達である。小田原駅に乗り入れる他の鉄道路線と比べれば影の薄さは否めないが、コデをはじめとする車両的、路線的、沿線的・・・どこから見てもハマれば面白い点は多く存在する。都心からすれば比較的気軽にいくことができる路線であると思うので、南足柄市ともどもぜひ一度訪れていただきたい。


4. おまけ(トリビア)

  • 大雄山線車両の試運転は、通常存在しない相模沼田駅折り返しで運転される。
  • さらに5000系の定期検査終了後の試運転は、駿豆線でも行われている。
  • 5000系の主電動機はMT54と同型品であり、実際どことなく似た走行音がする。
  • 5000系には高加速度スイッチが用意されており、ダイヤ乱れの際などごく稀に使用する機会がある。ちなみに通常の加速度は2.5km/h/sで、高加速モードの時は3.0km/h/s。
  • 伊豆箱根鉄道は現在全国でひそかなブームとなっている「ハートの吊り革」の元祖の1社であり、大雄山線でも全車両1526個の吊革の中に1つだけハート形のものが存在する。


参考文献
  • 伊豆箱根鉄道:「会社案内」、平成22年度版
  • 「鉄道ファン」、交友社、1984年6月号及び1986年5月号
  • 伊豆箱根鉄道:大雄山線車両の紹介、http://www.izuhakone.co.jp/railway/dsyaryo/index.html/、2015年8月参照


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